福山型筋ジストロフィー※1(Fukuyama Congenital Muscular Dystrophy, FCMDと略)はαジストログリカンという膜たんぱく質の表面にある糖鎖が欠損することがわかっています。糖鎖がないことで、細胞と細胞のつながりが破綻し、神経細胞の移動がうまくいかなくなり大脳皮質異常がおきるといわれています。
FCMDの大脳では皮質の形成異常をきたすと考えられていますが、FCMD患者と同じ遺伝子の変化を有するネズミの脳はほぼ正常であり、病態を再現することが困難でした。
そこであらゆる細胞に分化する能力を持つヒトiPS細胞の特性を活かして試験管内で大脳皮質オルガノイド※2を作ることで、その病態を再現し、FCMDの病態解明や治療法開発に役立てたいと考えました。
今回、藤田医科大学 臨床遺伝科 池田真理子准教授、神戸大学 青井貴之教授、小柳三千代助教、京都大学CiRA臨床応用研究部門 櫻井英俊准教授、東京大学戸田達史教授、カリフォルニア大学 渡邊桃子主任研究員らの研究グループは、日本特有の小児難病である FCMDの患者よりiPS細胞を樹立し、ヒト由来の大脳皮質モデルと骨格筋モデルを世界で初めて作成し、低分子化合物※3Mn-007が有効である可能性を発表しました。今後のFCMD病態解明や治療薬の効果検討に役立つと考えられます。
この研究成果は、英国の学術ジャーナル「iScience」(9月24日号)で発表され、併せてオンライン版が2021年9月14日に公開されました。
詳しい研究の内容は藤田医科大学ホームページのプレリリースをご参照ください。
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv000000bp88.html
※1福山型筋ジストロフィー
骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称。
とくに福山型筋ジストロフィー(FCMD)は本邦で二番目に多い小児期発症の筋ジストロフィーで、骨格筋以外に目や大脳・小脳の形成異常をきたす。日本人の90人に1人がその遺伝子異常の保因者であるとされ、国内に約1000~2000名の患者がいるといわれている。乳幼児期に、頸がすわらない、からだが“だらん”としている、などの筋力低下で気づかれることが多く、大脳MRIで特徴的な大脳や小脳の形成異常が認められる。原因遺伝子であるフクチン遺伝子の遺伝子検査により診断される。筋以外に大脳の形成異常による知的発達の遅れやてんかん、不眠症などを伴う。遺伝子異常を正常型にもどすアンチセンス核酸(池田准教授ら、2011年に総合学術雑誌「Nature」に報告)による臨床治験が開始されたところだが、未だ確立された治療法はない。特に、大脳の形成異常は胎児期より発症するため、中枢神経系の治療法は難しいと考えられている。
※2大脳皮質オルガノイド
オルガノイド(organoid)とは、多能性幹細胞であるiPS細胞やES細胞を用いて、眼、神経、大脳などの臓器の形成過程を体外で再現される三次元組織。
※3低分子化合物
分子量の小さい化合物のことで一般的には分子量が一万以下を指す。大きさが小さいため血液—脳関門を通過して脳に到達することが期待できる。