患者由来iPS細胞を用いた筋強直性ジストロフィー骨格筋病態の再現と薬効評価のための定量的な細胞評価系の確立

 DM1は成人において最も頻度の高い筋ジストロフィーとされていますが、根本的な治療薬は存在していません。治療薬の探索、開発を行うためには、DM1患者さんで認められる病態を再現したヒト細胞評価系の開発が求められています。

 DM1は、常染色体優性遺伝形式をとる遺伝性疾患であり、DMPK(dystrophia myotonica-protein kinase)遺伝子のCTG繰り返し配列が異常に伸長することが原因とされています。変異したDMPK遺伝子から産生される異常RNAは、遺伝子スプライシング機能を担うタンパク質MBNL1 (muscleblind like splicing regulator 1)に結合することで、細胞核内で凝集体を形成します。


その結果、MBNL1の正常な機能が阻害され、多くの遺伝子におけるスプライシング異常が生じることがDM1病態発症の主要な機序であるとされています。

 そこで、川田竜 元共同研究員(当時:CiRA臨床応用研究部門、現:大正製薬株式会社Discovery研究所)、櫻井英俊 准教授(CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、DM1患者さん由来のiPS細胞から、DM1の骨格筋における病態を再現する骨格筋細胞の分化誘導方法を特定し、治療薬による病態改善効果を定量的に調べることのできるヒト細胞評価系を開発することを目指して研究を行いました。

DM1患者さん由来のiPS細胞から作製した骨格筋細胞を用いて、DM1の主要な病態である細胞核内におけるMBNL1タンパク質の凝集および遺伝子スプライシング異常を再現し、定量的な薬効評価の可能なDM1のヒト細胞病態モデルを構築することに成功しました。 今回新たに構築したヒトiPS細胞評価系を活用することで、DM1治療薬の探索や開発などの創薬研究に貢献することが期待されます。

 この研究成果は2023年1月11日10時(英国時間)に英国科学誌「Scientific Reports」にオンライン公開されました。

詳しい研究の内容はCiRAホームページをご参照ください。
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/230111-190000.html