DMDは、ジストロフィン遺伝子の変異により筋肉にあるジストロフィンタンパク質が欠損することで発症する進行性の重篤な筋疾患で、現在治療薬は限られており根本的な治療方法は開発されていません。
DMDの治療薬としてはステロイド製剤が主に使用されていますが、病気の進行を2〜3年程度遅らせるのみに留まっており、根治に至る、または発症そのものを抑制する治療薬の開発が切望されています。近年iPS細胞を利用したDMDの病態研究や創薬研究が活発になってきていますが、機能的な病態を再現するには至っておらず、発症の抑制を実現するうえでもよりDMD患者さんの症状を反映した病態モデルの開発が求められています。DMD患者さんにおける病態変化の一つとして、骨格筋細胞内へのカルシウム過剰流入が考えられています。
そこで、当研究室はDMD患者さん由来iPS細胞から分化させた骨格筋細胞を用いて、カルシウム過剰流入とDMD骨格筋の機能不全の関連性に着目した研究を行いました。
内村智也特定助教(京都大学CiRA臨床応用研究部門、T-CiRA)、櫻井英俊准教授(京都大学CiRA臨床応用研究部門、T-CiRA)らの研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者さん由来iPS細胞を用いて、ストア依存性Ca2+チャネルの一つであるOrai1-STIM1複合体が、DMDの病態の一つとされている骨格筋細胞へのカルシウム過剰流入を制御していることを見出しました。また、同グループが以前報告した収縮力低下モデル(CiRAニュース2021年6月7日)を用いて、Orai1-STIM1複合体阻害剤による筋収縮の抑制評価を行いました。その結果、複数の阻害剤に収縮力低下を抑制する効果が見られました。これにより、既存薬とは異なる効能を持つ創薬開発の実現やカルシウム過剰流入による筋収縮力低下のメカニズム解明に貢献できると期待されます。
この研究成果は2021年10月31日にスイス科学誌「Biomedicines」でオンライン公開されました。
詳しい研究の内容はCiRAホームページをご参照ください。
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/211105-100000.html