1細胞レベルの網羅的遺伝子発現解析により、iPS細胞由来骨格筋前駆細胞から高い筋再生能力を持つ細胞群を同定

DMDは、筋肉にあるジストロフィンというタンパク質が欠損することによって発症する進行性の重篤な筋疾患で、根本的な治療法は開発されていません。ジストロフィンを骨格筋に再生する方法として、細胞移植治療が期待されています。

櫻井准教授らの研究グループはこれまでに、筋再生能の高い骨格筋幹細胞注1)を分化させる方法を開発しています(CiRAニュース 2020年7月3日)。また骨格筋幹細胞を純化するマーカとしてCDH13およびFGFR4が有用であることを報告しています(CiRAニュース 2021年4月2日)。しかしながらiPS細胞から分化誘導された骨格筋幹細胞を含む骨格筋前駆細胞注2)は均一な集団であるのか、不均一な集団であるのか、不均一であるならばどの亜集団が最も筋再生能力が高いのか、という点は不明でした。

Nalbandian Minas 元特定研究員(CiRA臨床応用研究部門、現スタンフォード大学研究員)、山本拓也 准教授CiRA未来生命科学開拓部門)、櫻井英俊 准教授CiRA臨床応用研究部門)らの研究グループは、これまで、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)注3)のような骨格筋疾患の治療法として、iPS細胞由来骨格筋前駆細胞の移植治療法を開発してきました。しかし、iPS細胞から誘導された骨格筋前駆細胞は均一な細胞集団であるのか否かは不明でした。そこで、1細胞レベルでの網羅的遺伝子発現解析を行い、骨格筋前駆細胞が静止期幹細胞(Non-cycling)、増殖期幹細胞(Cycling)、筋分化細胞(Committed)、筋細胞(Myocytes)の4種の細胞群から成り立っていることを明らかにしました。それらの亜集団を分離するマーカとしてFGFR4とCD36が有用であることを発見し、FGFR4陽性細胞群が高い筋再生能力を持つことを明らかにしました。

 

この研究成果は2022年4月22日に「Life Science Alliance」でオンライン公開されました。

詳しい研究の内容はCiRAホームページをご参照ください。

https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220425-000000.html

注1) 骨格筋幹細胞
骨格筋系の細胞へと分化することができる幹細胞。

注2)骨格筋前駆細胞
骨格筋に分化できる細胞全体の総称。その中に骨格筋幹細胞が含まれている。

注3) デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)
筋ジストロフィーとは骨格筋の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患の総称であり、デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、ジストロフィンと呼ばれるタンパク質が全くもしくはほとんどないために起こる。ジストロフィンは筋細胞が壊れにくくする役割を持つタンパク質で、ジストロフィンが少ないと筋細胞が壊れ、炎症、線維化が起こり、筋力の低下による運動障害、呼吸筋障害、心筋障害などが引き起こされる。ほとんどの患者さんは20歳前後で死亡する。