はじめに

_私たち櫻井研究室は、京都大学iPS細胞研究所の臨床応用研究部門を構成する研究室のひとつです。臨床応用に向けた研究・技術開発を行う部門の中で、私たちの研究室は難治性筋疾患に対する新たな治療法の研究を行います。

_ラボが立ち上がって14年目となり、これまで積み上げてきた成果を改良し、さらに使いやすい技術にする取り組みを成果発表できました。一つ目は、細胞治療にも病態解析にもどちらのテーマにも活用できるiPS細胞由来の骨格筋幹細胞について、その分化誘導効率が低いことがボトルネックでした。我々は大阪大学蛋白質研究所の関口清俊博士らと共同研究を進め、新たな合成細胞外マトリックスである「次世代型ラミニンE8フラグメント」を開発し、骨格筋幹細胞の誘導に応用しました。この次世代型ラミニンE8フラグメントは従来からiPS細胞の維持培養に用いられているラミニンE8フラグメントに、パールカンという細胞外マトリックスのヘパラン硫酸鎖担持ドメインを連結したものであり、ヘパラン硫酸鎖による生理活性付与が期待できます。iPS細胞からの骨格筋幹細胞分化誘導に、次世代型ラミニンE8フラグメントの一つであるパールカン結合ラミニン421E8フラグメント(p421E8)を用いると、従来法より約2倍の効率で骨格筋幹細胞を誘導できることが分かりました。その作用は、分化誘導のごく初期に沿軸中胚葉への分化誘導が効率よく起きることに起因しており、この時にヘパラン硫酸鎖が培地中のFGF2を捕捉して細胞にFGFシグナルを効率よく伝えていることを明らかにしました。今後は、このp421E8を活用して、再生医療の実現化、創薬研究の深化に寄与したいと思います。

_またMyoD発現ベクターを用いた骨格筋細胞の分化誘導については、主に病態研究に用いられてきました。しかしながら、クローンによって分化誘導効率が異なるというボトルネックがあり、病態研究を進める前段階として、よく筋分化できるクローンを選別する作業が発生していました。我々はMyoD発現ベクターの構造に注目し、薬剤耐性遺伝子の種類によって遺伝子発現レベルが変化し、ピューロマイシン耐性遺伝子を搭載したベクターでは、分化誘導効率が上昇し、クローンを選別しなくても筋分化誘導効率が90%以上となることを見出しました。この成果により、疾患特異的iPS細胞を用いた病態研究がより簡便に迅速に進められるため、多くの共同研究を通じて疾患研究を希望する研究者に技術を提供しています。

_昨年度から学会や研究会もほとんどが現地開催となり、他大学でのセミナーなども引き受けております。ホームページはなかなか更新ができておらず申し訳ないですが、講演会等で成果を発表していければと思います。

_研究内容などに興味がある方は、遠慮なくご連絡ください。

2024年7月 櫻井 英俊